筋細胞の損傷による疲労
(下りでの危険)

筋肉痛とは、筋肉の細胞が壊れたときに起こる炎症の痛みである。
これは以下に見るように下りに特有な現象である。

登山や山岳サイクリング(MTBサイクリング)中の運動を登りと下りとに分けて考えると、次のことが言えます。

• 登りでは自分の体を上に持ち上げなければならないので、運動エネルギーを位置エネルギーに変換する必要があります。
  この運動エネルギーを発生するためには大量の酸素を体内に行き渡らせる必要があり、その為に肺や心臓が沢山働く必要があります。
• 下りでは位置エネルギーが運動エネルギーに変わるので、自ら運動エネルギーを発生させる必要はなく、ので体の負担という意味では肺や心臓にかかる負担は小さくてすみます。

上の2点は要するに「登りよりも下りの方が楽だ。」と言うことを少し科学的に言っただけで、当たり前のことですね。

ところが、これらの登り、下りそれぞれの運動を筋肉（大腿四頭筋：太ももの前面にある筋）の使われ方という観点から見ると、全く違った様相を示していることが分かります。

• 登りでは、大腿四頭筋は長さが縮みながら力を発揮する。
• 下りでは、この筋は引き伸ばされながら力を発揮する。

筋肉は、通常は長さが縮みながら力を出します。重い物を持ち上げる時、水泳で腕が水をかく時など、全てそうです。

これに対して、下り坂での筋肉が引き伸ばされながら力を発揮するという使われ方は、日常生活では余り使われない不自然な運動様式です。

つまり、下りでは筋肉が余り使われない使われ方を繰り返し要求されるということです。その結果、筋力不足の人では、筋細胞が壊れるという結果になってしまう訳です。

そして、筋細胞が壊れた結果、急激に筋力が低下することになります。下りで膝がガクガクしたりするのは、こうした結果です。

筋肉に生じる、こうした下り坂に特有な現象の結果、下りでは次のような危険が生じます。

• 上記に見たような急激な筋力の低下により、転倒するリスクが増大する。
• 筋が壊れたことによって発生する老廃物を処理するために、腎臓への過大な負担が発生する。
• 登山では大きな着地衝撃が発生する。下りでは登りの時の2倍、ジョギング時に匹敵するような衝撃がかかります。
  登山は歩きではあっても、下りではジョギングに匹敵する負担が膝にかかっていると思うべきです。
• 山岳サイクリング(MTBサイクリング)では、下りは殆ど乗車しているので、登山よりも遥かに膝にかかる負担は小さく、より健康に良いと言えるのではないかとも思います。
• また、その一方で、山道の下り坂では歩行時に比べて柔らかな衝撃であるとは言え、継続的に膝に衝撃が加わります。こうした衝撃が歩行に比べてどれだけ良いのか、または悪いのかについての詳しい事は分かっていません。

下りでの疲労を防ぎ転倒のリスクを小さくするために、山岳サイクリング(MTBサイクリング)では次のような点に気を配る必要があると思います。

• 下りでは乗車できるコースを選ぶ。万が一乗車できない箇所では登山の先人が言うように「猫のように歩く｣。
• 下りで乗車できない場合、自転車を持っていることから膝にかかる負担は通常より以上であると思うべきです。
• ザックを軽くする。
• 自分の体重も軽くする。